英語の会議の準備で、英語を準備してはいけない — 発言できる人がやっている8つのこと
英語の会議の前日に、フレーズ集を開く。会議で使えそうな表現をいくつか眺めて、なんとなく安心して寝る。そして当日、一つも使わないまま会議が終わる。
覚えのある人は多いと思います。準備した実感はあるのに、結果が変わらない。
理由ははっきりしています。準備の対象が間違っているからです。会議で必要なのは汎用的な英語表現ではなく、その会議で自分が言わなければならない具体的な一言です。前者は当日引き出せませんが、後者は引き出せます。
私が本社との会議に出ていたころ、言うべきことを言えるかどうかは、会議が始まる前にほぼ決まっていました。実務で効いた準備を8つ挙げます。
1. 準備するのは「その会議で言う一言」
フレーズ集の暗記が当日役に立たないのは、議題と結びついていないからです。I'm concerned about … を覚えていても、何を concerned なのかは自分で作るしかない。そして作る作業に詰まって、順番が消えます。
逆に、議題に紐づいた一文を用意しておけば、それは引き出せます。準備すべきなのは英語の型ではなく、中身の入った一文です。
型そのものは、用途別にいくつか持っておくと入り口が楽になります。ただしそれは日常的に口を慣らしておく話で、前日の準備でやることではありません。
2. 「自分が言わなければ誰も言わないこと」を特定する
アジェンダが届いたとき、各議題について確認するのは、自分が言わなければこの会議で誰も言わないことは何かです。
会議で発言ができないと困っている方向けの記事で、「とにかくまずは一言発言するように準備をしてみましょう」とするものもあります。英会話の練習であれば当たり障りのない一言を用意し、それを言うことにも意義があるでしょうし、small step で自信をつける効果もあるかもしれません。
ただ、ビジネスの現場では事情が違います。日本市場の事情、現場の制約、リソースの実態のように、本社側の誰も持っていない情報が自分の側にあります。さらに、本社の意向に意見を述べなければ、実行部隊である自分たちが低評価や市場からの反発、トラブル対応を請け負うことになります。
言うべきことが一つであることは少ないでしょう。それでも常に全部を出せるとは限らないので、内容に重要度、優先順位をつけておきます。
特に絶対に譲れない内容は、頭の中で考えるだけではなく、実際に英文にして書き出し、音読もしておくとよいでしょう。
議題:Q4キャンペーンの前倒し 言うべきこと:
We can't move the launch earlier without cutting the review period. The Japan team needs four weeks for legal review.
書き出す作業には二つ効果があります。一つは、当日そのまま読めること。もう一つは、書いてみて初めて「自分が何を言いたいのか曖昧だった」と気づけることです。日本語でも詰まる論点は、英語では絶対に出てきません。
3. 重要な発言ほど、議論の最中にしか置けない
発言の置き場所として最も競争率が低いのは、議題が切り替わる直前です。司会が「他にありますか」と確認するあの数秒は、誰とも競合しません。
ただし、そこに置けるのは補足までです。議論の流れを変える発言は、議論が動いている最中にしか効きません。 前提が違ったまま結論が出かかっているときに「他にありますか」を待っていたら、手遅れになります。
つまり割り込みは避けて通れません。度胸の問題ではなく、技術として練習する対象です。
先に名前を呼ぶ。 Mike, sorry — のように相手の名前から入ると、注意がこちらに向きます。Excuse me だけだと誰に向けた発言か分からず、流されます。
許可を求める形で入る。 Can I jump in here? Let me add one thing before we move on. 疑問形や宣言で入れば、断られることはまずありません。逆に内容から入ろうとすると、話が被った時点で引っ込めることになります。
相手が言い終わるのを待たない。 日本語の会話では、相手が完全に話し終えてから話し始めます。英語の会議で同じことをしていると、順番は来ません。文が終わりきる少し前、意味の切れ目に被せて入るのが普通で、失礼にはあたりません。オンラインは音声の遅延があるぶん、さらに早めに入る必要があります。
オンラインなら、機能で順番を確保する。 挙手機能を使うか、チャットに I have a point on this と一行打っておく。これは物理的に順番を押さえられるので、割り込みが苦手なうちは最も確実です。司会が拾ってくれます。
被ったら譲る。ただし必ず戻る。 同時に話し始めてしまったら Go ahead. と譲ります。大事なのはここで引っ込めないことで、相手が話し終えた瞬間に戻ってください。
Coming back to what I was going to say —
一度譲っているので、この時点で順番はむしろ確保されています。
なお、割り込んだあとにどう話すか、逆に自分が割り込まれたときにどうするかまで含めた対処は、別記事で詳しく扱っています。
4. アジェンダがない会議には、直前の会話がある
複数人が集まる会議なら、アジェンダか事前資料があるのが普通です。ここまでの準備は、たいていの会議で実行できます。
準備が効かないのは、チャットから急に発生する短い打ち合わせのほうです。Do you have 5 minutes? と言われて、そのまま通話が始まる。アジェンダはありません。
ただしこの場合、直前のチャットのやり取りがそのまま文脈です。 何の話をするかは分かっている。準備の材料がないのではなく、材料がスレッドの中にあります。
やることは二つだけです。そのスレッドを開いたまま通話に入ること。そして通話に応じる前に、自分の側の数字と結論を一行だけメモすること。「今すぐ」と言われても、2分は取れます。
5. 冒頭で一度、声を出しておく
これは実用的な効果が大きいわりに、あまり書かれていない話です。
最初の発言が遅れるほど、入りにくくなります。 30分黙ってから急に話し始めるのは、心理的にも場の流れ的にもハードルが高い。逆に、開始5分以内に一度でも声を出しておくと、その後の発言が明らかに楽になります。
内容は何でもかまいません。挨拶でも音声確認でも十分です。
Hi everyone, this is [name] from the Japan team. Can you hear me okay?
オンライン会議ならマイクの確認を兼ねられるので、不自然になりません。これで「その場にいて、発言する人」として登録されます。
6. 自分が言う数字と固有名詞は、声に出しておく
会議で詰まる典型が数字です。
意味は分かっていても、口から出す形で練習していないものが多い。桁の大きい数字(1.2 billion)、パーセンテージ、日付、製品名、相手の名前。読めば分かるのに、言おうとすると止まります。
略語は特に注意が必要です。四半期を Q3 と書くのは普通ですが、これを口に出すとき「キューさん」はもちろん、キュースリー も安全ではありません。the third quarter と言い切ったほうが確実です。
理由は単純で、略語は一音でも崩れると相手が推測で埋められないからです。the third quarter なら多少発音が崩れても復元されます。大して長くもありません。文字数を惜しんで通じないより、言い切って伝わるほうがいい。
自分が言う可能性のある数字と固有名詞だけ、前日に声に出して読んでおいてください。5分もかかりません。数字で詰まると、その一回で発言全体が崩れます。逆にここが滑らかだと、多少文法が崩れていても「準備してきた人」に聞こえます。
7. 戻る道を一つ用意しておく
聞き取れない前提で準備してください。実際、聞き取れないことはあります。
大事なのは、そのときに戻る道を持っていることです。
Sorry, could you repeat the last part?
聞き返すのは弱さではありません。分かったふりをするほうが、はるかにコストが高い。 その場は流せても、認識がずれたまま話が進んで、後で修正することになります。
とはいえ何度も使えるものでもないので、追いきれないと判断したときの逃げ道も一つ持っておくといいと思います。
I'll follow up on that after the meeting.
これは「今は処理できないが、放置はしない」という表明として機能します。黙って流すのとは扱いがまったく違います。
なお、聞き返し方そのものにも技術があります。Sorry? だけでは同じ速度で全文が返ってくるので、分からなかった箇所を特定して聞くほうが早い。詳しくは別記事にまとめました。
8. 次の準備は、会議が終わった直後に終わる
会議が終わったら、5分だけ使ってください。
言おうとして言えなかったことをメモする。 これが次回の1と2の材料になります。同じ論点はたいてい次も出てくるので、そのまま使えます。
そしてもう一つ。言えなかった内容が重要なら、その日のうちにメールで出しておきます。
Following up on today's discussion, one thing I'd like to add is …
会議で言えなくても、議事録が確定する前に出せば検討事項として残ります。沈黙のリカバリーとして、これは実際に有効です。
ただし常態化はさせないでください。毎回メールで補っていると、「会議では発言しない人」として固定されます。あくまで、間に合わなかったときの手当てです。
まとめ
- 準備するのはフレーズではなく、自分が言わなければ誰も言わない一文
- 言うべきことに優先順位をつけ、譲れないものは英文にして書き出し、音読しておく
- 重要な発言は議論の最中にしか置けない。割り込みは技術として練習する
- 名前を呼ぶ、許可を求める形で入る、言い終わるのを待たない、機能で順番を確保する
- アジェンダのない打ち合わせは、直前のチャットが文脈になっている
- 開始5分以内に一度声を出しておく
- 数字と固有名詞は前日に音読する。略語より、言い切れる形を選ぶ
- 会議直後の5分で、次回の材料をメモする
準備といっても、英語の勉強ではありません。ほとんどは会議の設計の話です。そしてここまでやっても、実際に口を開く段階では別の問題が出てきます。音量、単語だけで投げてしまう癖、意図より強く伝わる否定。そちらは別記事で整理しました。