英語のメールに時間がかかる — 原因は英語力ではなく、書く順序にある

送信ボタンを押すまでに30分かかる。内容自体は3行で済む話なのに、書いては消し、辞書を引き、他の人が書いたメールを探して言い回しを確認し、それでも不安なまま送信する。

会議ほど話題にはなりませんが、英語メールに溶けている時間は、実際には会議より長いはずです。毎日発生するからです。

そして多くの人が、原因を英語力に求めます。しかしメールは時間さえかければ辞書も使えるし、書き直しもできる。「書けない」のではなく「時間がかかる」なら、それは英語力の問題ではありません。

原因は、日本語のメールの作法をそのまま英語に持ち込んでいることにあります。

時間を溶かしている5つの癖

1. 日本語で下書きしてから訳している

これが最大の原因です。

日本語のビジネスメールには、前置き、経緯の説明、クッション表現、敬語の層が積み重なっています。それを一つずつ英語に置き換えようとすると、対応する表現を探す作業が延々と発生します。しかも英語に対応する表現が存在しないものが多い。「お世話になっております」も「よろしくお願いいたします」も、訳そうとすれば時間が溶けます。

訳す作業をやめるだけで、体感の半分は消えます。

2. 前置きから書き始めている

日本語のメールは、用件に入るまでに何行か使います。英語のビジネスメールは、基本的に用件から始まります。

Hi Mike, Could you confirm the Q4 numbers by Thursday?

これで成立します。冷たく見えるかもしれませんが、相手にとってはこのほうが親切です。何の用事か即座に分かるので、処理が早い。

3. 結論が最後にある

日本語のメールは、背景を説明してから結論に向かいます。英語は逆で、結論が先、背景が後です。

日本語の順序で書き始めると、途中で構成を組み直すことになります。書きながら並べ替えるので、時間が二重にかかる。

先に「何を伝えたいのか」「相手に何をしてほしいのか」を一行で決めてから書き始めてください。順序が決まっていれば、あとは埋めるだけになります。

4. 一通で全部済ませようとしている

日本語のメールでは、往復を減らすために情報を詰め込む傾向があります。英語では逆に、短く何度も往復するほうが速い。

長いメールは読まれるまでに時間がかかり、返信も遅くなります。しかも複数の依頼を一通に混ぜると、返信で片方が落ちます。落ちた分をもう一度依頼することになるので、結局往復が増える。

一通一用件が最も速い形です。

5. 依頼が弱すぎて、依頼として認識されない

これは会議とは逆向きの問題です。

英語の会議で反対すると、意図より強く伝わってしまうという話を別記事で書きました。緩衝表現の語彙がないので、強度が0か100になるという内容です。

メールでは逆のことが起きます。 日本語の丁寧さを訳そうとして、依頼が弱くなりすぎる。

It would be great if you could take a look at this.

書いた側は「確認してください」のつもりでも、受け取った側には「時間があれば見てもいい」と読めます。期限もないので、優先順位は最下位に置かれます。そして返事が来ないまま数日が過ぎ、催促のメールをもう一通書くことになる。

丁寧さは残したまま、依頼として成立させる形にしてください。

Could you review this and let me know by Thursday?

Could you は十分に丁寧です。そこに期限を足せば、依頼として機能します。

書く順序を変える

処方はごく単純です。書き始める前に、次の4つを日本語で決めておきます。

  1. 何の件か(件名になる)
  2. 相手に何をしてほしいか(依頼)
  3. いつまでか(期限)
  4. 判断に必要な背景(あれば)

この4つが決まっていれば、あとは英語に載せるだけです。迷っている時間の大半は、英語ではなく内容が固まっていないことに使われています。

件名で用件を終わらせる

意外に効くのがここです。

Action needed: Q4 budget confirmation by Friday FYI: Japan market update, no action needed

件名で「何をすべきか」「いつまでか」が分かれば、本文は補足になります。相手は開く前に優先順位を判断できますし、書く側も件名を決めた時点で本文の構成が決まります。

Action needed Decision needed FYI Question あたりを頭に付ける習慣をつけると、相手の反応速度が目に見えて変わります。

依頼は箇条書きにして、主語を明示する

複数の依頼がある場合、文章に埋め込むと必ず取りこぼされます。

Could you confirm the following by Thursday? - Budget for the Q4 campaign - Headcount for the new project

そして誰がやるのかを曖昧にしないでください。日本語では主語を省いても通じますが、英語で It needs to be confirmed. と書くと、誰が確認するのか決まりません。宙に浮いたまま誰も動かない、という結果になります。

毎回ゼロから書かない — 定型文は借りるもの

時間がかかる原因として、もうひとつ大きいのが定型表現の在庫がないことです。

英語のビジネスメールには、場面ごとにほぼ決まった言い回しがあります。依頼、催促、断り、日程調整、共有、謝意。母語話者も非母語話者も、その定型に乗せて書いています。毎回考えて書いているわけではありません。

在庫がないと、毎回ゼロから組み立てることになります。これは会議で話し始めの型を持っていないのとまったく同じ構造です。話す場面では型を用途ごとに持っておくと入り口が楽になりますが、メールでも同じことが言えます。

借りる先は、教材ではなく受信箱

最良の教材は、自分宛てに届いた実際のメールです。同じ相手、同じ文脈、同じ用件で書かれた英語がそこにあります。教材の例文と違って、その職場で実際に通用していることが確認済みでもあります。

うまい依頼メールや、断り方がきれいなメールを受け取ったら、構造ごと保存しておいてください。次に同じ場面が来たら、それを土台に書けます。これを続けるだけで、構成の質は目に見えて上がります。

ただし、誰のメールを借りるかは選ぶ

ここに注意点があります。役職が上の人のメールは、そのまま真似しないほうがいい。

理由は2つあります。ひとつは、上位者のメールは極端に短いことがある。Please advise.Thoughts? で済ませられるのは、その人の立場だから成立しているのであって、同じ書き方を別の立場の人がすると、素っ気ないだけになります。

もうひとつは、上下関係を前提にした表現が混ざっていることです。指示として書かれた文をそのまま同僚やカウンターパートに送ると、指図しているように読まれます。

借りるなら、自分と近い立場の人のメールです。同僚、カウンターパート、同格のチームメンバー。その人たちが依頼や確認をどう書いているかを見てください。立場が近いぶん、そのまま使っても違和感が出ません。

完璧に書いて翌日送るより、雑でも当日返すほうが速い

もう一つ、時差の話をしておきます。

日本と欧米には時差があります。こちらの午前に届いたメールに、その日のうちに返せば、相手の営業時間内に届きます。しかし翌日に返すと、相手にとっては実質2日後です。往復が2回発生すれば、それだけで一週間が消えます。

ここで効いてくるのが、完成度と速度のどちらを取るかです。

冠詞が抜けていても、前置詞が違っていても、多国籍の相手は気にしません。全員が非母語話者の英語を読み慣れています。問題になるのは英語の精度ではなく、依頼が曖昧なことと、返信が遅いことです。

これは会議で「正しさより完結性」を優先するという話と同じ構造です。メールでも成り立ちます。

速くするために、実際に効くこと

過去の自分のメールを再利用する。 実務で書くメールの用件は、たいてい繰り返します。依頼、確認、共有、日程調整、断り。5つか6つの型を持っておけば、大半は埋めるだけで済みます。前の節で書いた「借りた定型文」も、一度使ったら自分の型として保存してください。

生成AIに下書きさせるのは有効です。 ただし出てきた英語をそのまま送るのではなく、自分の型として蓄積してください。 そうしないと、いつまでも毎回ゼロから頼むことになります。使うたびに自分の引き出しが増える形にしないと、速くなりません。

そして、日本語で下書きするのをやめること。最初は書けなくても、上の4項目を決めてから英語で書き始めるほうが、結果的に速く終わります。

まとめ

なお、口頭でのやり取りについては別記事で扱っています。