英語の会議が聞き取れない — リスニングを鍛える前に、聞き返し方を変える
会議の途中で一箇所聞き逃す。そこが何の話だったか分からないまま次の発言が始まり、前提を失ったまま議論が進む。気づくと、もう何を話しているのか追えていない。
そして会議のあと、こう考えます。リスニングが足りない、と。教材を買い足し、通勤中にポッドキャストを流し始める。
しかし多くの場合、それでは解決しません。教材は聞き取れているのに会議が聞き取れないなら、それはリスニング力の問題ではないからです。会議の音声は、教材とまったく違う条件で流れています。
なぜ教材は聞き取れて、会議は聞き取れないのか
音質が違う
会議の音声は圧縮されています。回線の状態で途切れ、マイクの質もばらばらで、環境音も入ります。教材や試験の音声は、スタジオで録音された最良の状態のものです。
同じ英語でも、届いている情報量が違います。
話者が複数いて、被る
誰が話しているかを特定する処理が、内容の理解に加えて必要になります。前の人が言い終わる前に次の人が話し始めることも普通です。
試験の音声では話者が明示され、順番に話します。この差は大きい。
主戦場は、非母語話者の英語
教材や試験のアクセントは、多くが米英豪加に限られています。しかし実際の会議で聞くのは、インド英語、フランス語訛りの英語、中国語話者の英語、ブラジルの英語、そして日本人の英語です。
アジア太平洋の統括拠点がシンガポールに置かれている外資は多く、APACの枠組みで仕事をするなら、シンガポールの英語にはほぼ確実に出会います。 本社が米国や欧州でも、日常のやり取りの相手は地域統括、つまりシンガポールというケースが普通にあります。
ここで知っておくと楽になることがあります。「聞き取れない」の中身は、相手によって別物です。
インド英語やフランス語話者の英語が難しいのは、主に音の問題です。子音の出し方やイントネーションが教材と違うので、知っている単語が知っている音で届きません。
シンガポールの英語は事情が少し違います。音の違いに加えて、くだけた場面や話が速くなったときに、主語や be 動詞が落ちることがあります。This one confirmed already? のように、こちらが待っている文の形で来ない。音は取れているのに、意味が組み立てられないという詰まり方をします。
同じ「聞き取れなかった」でも、音が届いていないのか、文の形が想定と違うのかで中身が違う。前者は慣れるしかありませんが、後者は「そういう形で来ることがある」と知っているだけで、その場の処理がかなり変わります。
いずれにせよ、これは相手の英語の問題ではなく、こちらが慣れていないだけです。ただし慣れていない以上、その場では聞き取れません。
教材を増やしても、この領域には届きません。 学んでいる音と、実際に聞く音がずれています。
省略と、内輪の語彙が混ざる
プロジェクトの略称、社内システムの名前、前回の会議で共有された前提。これらは説明なしに出てきます。試験の問題文は自己完結していますが、会議の会話は文脈に依存しています。
間がない
聞き取れなかった箇所を処理している間に、次の発言が始まります。考える時間が確保されていません。
ただし、会議には試験にない有利さが2つある
ここが大事なところです。会議は試験より不利な条件ばかりではありません。
ひとつ、聞き返せます。 試験の音声は一度きりですが、会議では相手に確認できます。当たり前のようですが、この権利を使っていない人がとても多い。
ふたつ、予測できます。 そもそも議論のテーマは、自分の職務であり専門性のある領域です。アジェンダや事前資料を確認しておけば、話される内容の相当な部分は予測がつきます。特に数字、略語、固有名詞は、事前に目を通せるだけでなく、聞きながら手元の資料で確認することもできます。 耳で取りきれなかった数字を、目で補えるということです。試験ではどちらもできません。
つまり、やるべきことは「聞き取る力を上げる」ではなく、「この2つの有利さを使い切る」ほうです。 前者は時間がかかりますが、後者は今日からできます。
聞き返し方を変える
Sorry? では解決しない
聞き返しているのに解決しない、という経験はないでしょうか。
Sorry? や Pardon? だけで聞き返すと、相手は同じ内容を、同じ速度で、丸ごと繰り返します。 一度聞き取れなかったものが二度目で聞き取れる保証はありません。そして三度目は聞きにくい。
問題は聞き返したことではなく、何が分からなかったかを伝えていないことです。
分からなかった箇所を特定して聞く
Sorry, I didn't catch the number.Sorry, who is going to own that?Can you spell that name?
こう聞けば、相手は必要な部分だけを言い直します。全文を繰り返す必要がないので、相手の負担も小さい。固有名詞は spell を頼むのが確実です。
聞き取れた部分を示すことで、聞き取れなかった部分だけを取りに行ける。 これは聞き取り力とは別の技術です。
さらに良いのは、聞き返しではなく確認にすること
Just to confirm — you said Thursday, not Tuesday?So the deadline is end of March, correct?
これが最も効きます。理由は2つあります。
ひとつは、相手の返事が yes か no で済むこと。長い説明が返ってこないので、その返事は確実に聞き取れます。
もうひとつは、聞き取れていない人ではなく、正確に詰める人として扱われること。同じ「分からなかった」を出発点にしていても、印象がまったく違います。
タイミングは3秒以内
分からないと思ったら、すぐ止めてください。時間が経つほど戻りにくくなり、話題も進んでしまいます。
「後でまとめて聞こう」は、たいてい実行されません。
聞き取れない前提で設計する
聞き返しの技術と並行して、そもそも音声で受け取らない仕組みを作ります。
数字と固有名詞はチャットに書いてもらう。
Could you put that in the chat?
日付、金額、パーセンテージ、人名、システム名。これらは一度聞き逃すと復元できませんが、文字なら確実です。オンライン会議なら遠慮なく頼めます。
自動字幕・文字起こしを使う。 多くの会議ツールに機能があります。完璧ではありませんが、固有名詞の確認や、聞き逃した箇所の推測には十分役立ちます。
事前資料の数字と固有名詞は、音で頭に入れておく。 目で読んで知っているだけでは、耳で聞いたときに結びつきません。会議前に声に出して読んでおくと、聞こえ方が変わります。自分が話す側の準備については別記事にまとめましたが、聞く側にも同じことが言えます。
メモは全部取らない。 聞きながら書くのは、母語でも難しい作業です。キーワードと数字だけに絞ってください。文章として記録しようとすると、その間の発言を丸ごと落とします。
「分かったふり」のコストは、聞き返すコストより大きい
聞き返さずに頷いて流すと、その場は収まります。しかし相手からは合意したように見えます。
後になって認識のずれが表面化したとき、問題になるのは英語力ではありません。「聞いていたはずなのに違う理解だった」という事実のほうです。聞き返さなかったことで、かえって信用を減らします。
そして実際のところ、多国籍の会議では全員が聞き返しています。 非母語話者同士なら当然ですし、母語話者も回線が悪ければ聞き返します。聞き返さないのは日本人だけ、という場面が珍しくありません。
聞き返しは能力不足の告白ではなく、議論を正確に進めるための作業です。実際、確認を挟む人のほうが、議事録の精度も上がります。
何を練習すれば効くのか
最後に、練習の話をします。
教材のリスニングを増やしても、非母語話者の訛りには届きません。 これは素材が違うからで、量の問題ではありません。効くのは実際の会議の録音です。自社の会議に録画機能があるなら、それが最良の教材になります。自分が参加した会議なら文脈も分かっているので、どこが聞き取れなかったかを正確に特定できます。
そしてもう一つ、見落とされがちな事実があります。聞く相手は固定されています。
実務で英語を聞く相手は、たいてい同じ顔ぶれです。本社の担当者が数人、地域統括が数人、プロジェクトのメンバーが数人。世界中のあらゆる訛りに備える必要はなく、その十数人の英語に慣れれば、実務の大半は解決します。
だから汎用の教材より、その人たちが話している録音のほうがはるかに効きます。同じ人の話を何度か聞き返せば、その人が落としやすい音の傾向が見えてきます。一度見えると、次からは同じ箇所で詰まらなくなる。
「非母語話者の英語一般に慣れる」は終わりのない課題ですが、「自分のカウンターパートの英語に慣れる」なら終わりがあります。
シャドーイングや音読には意味があります。 音を処理する速度が上がるので、聞き取りにも効きます。ただしそれは土台の話で、今日の会議を乗り切る方法ではありません。この切り分けは何にお金をかけるかの順番でも書きました。
そして聞き返しの技術は、実際の会議でしか練習できません。 1対1のレッスンでは講師が分かりやすく話してくれるので、聞き返す必要が生まれないからです。ここは割り込みの技術とまったく同じ構造です。
まずは次の会議で、Just to confirm — をひとつ使ってみてください。それだけで、聞き取れなかった箇所が議論から消えなくなります。
まとめ
- 教材が聞き取れて会議が聞き取れないなら、それはリスニング力の問題ではない
- 会議の音声は、音質・複数話者・非母語話者の訛り・省略・間のなさで、教材とは別物
- **「聞き取れない」には2種類ある。**音が届いていないのか、文の形が想定と違うのか
- ただし会議には試験にない有利さが2つある。聞き返せることと、予測できること
Sorry?だけでは同じ速度で全文が返ってくる。分からなかった箇所を特定して聞く- 最も効くのは聞き返しではなく確認。
Just to confirm — you said Thursday, not Tuesday? - 数字と固有名詞はチャットに書いてもらう。音声で受け取らない
- 分かったふりは、聞き返すよりコストが大きい。合意したことになる
- 聞く相手は固定されている。「非母語話者の英語一般」ではなく、自分のカウンターパートの英語に慣れればよい
なお、聞き取れたあとに何を言うかは別の問題です。発言の順番の取り方、意図より強く伝わる否定などは別記事で扱っています。