「英語の会議で発言できない」を分解する — 語彙でも発音でもない、5つのつまずき
英語の会議が終わったあと、自分が一言も発言していなかったことに気づく。内容は理解できていた。意見もあった。それなのに口を開くタイミングを見つけられないまま、議題は次に進んでいた。
TOEIC は 800 に届いている。メールも資料も読める。それなのに会議になると黙ってしまう。この状態を、多くの人は「英語力が足りないから」と説明します。そして単語帳を買い直したり、発音矯正のアプリを入れたりする。
私は外資系企業の日本法人でラインマネジメントを担当し、本社のカウンターパートと日常的にやり取りしてきました。多国籍のレポートラインで、日本人メンバーが英語の会議で沈黙する場面も、自分が沈黙する側だった時期も見ています。そのうえで言えるのは、発言できない原因の大半は語彙でも発音でもない、ということです。
原因は、日本語の会議でうまくいっていた振る舞いを、そのまま英語の場に持ち込んでいることにあります。以下、実際に頻出する5つのつまずきを挙げます。
つまずき1:聞き返されたのは、発音のせいではない
Sorry? Pardon? Could you say that again? と返された経験は、誰にでもあると思います。そしてほぼ全員が、これを発音のせいだと解釈します。
しかし実際に多いのは、音量が足りていないことと、文の後半で声が尻すぼみになることです。
自信のない内容ほど語尾が消える。これは日本語でも同じ癖ですが、日本語では相手が文脈で補完してくれるので表面化しません。英語では補完されない。しかも英語は文末に重要な情報が来る言語です。「何を」「どうしたい」「いつまでに」が全部、消えていく後半に乗っている。冒頭の I think we should… だけがはっきり届いて、肝心の部分が届かない。
オンライン会議ではこれが増幅されます。多くの会議ツールは音声を検知してから送信を始めるため、話し始めの一拍が切れる。声が小さければ検知そのものが遅れます。
対処はごく単純です。
- 話し始めの一語を、自分では大きすぎると感じるくらいの音量で出す
- 結論を文の前半に置く(後半が消えても意味が残る)
- オンラインでは、ミュートを外してから半拍置いて話し始める
発音を直すことに意味がないとは言いません。ただ優先順位はかなり低い。多国籍の会議では、インド英語もフランス語なまりの英語も普通に飛び交っていて、全員がそれを聞き取ることに慣れています。日本語なまりが問題になることは、まずありません。
つまずき2:単語で投げると、意図は必ず誤解される
会議で発言しようとしたとき、こういう出し方になっていないでしょうか。
Cost… difficult…
本人の意図は「コスト面で厳しいので、この案は再検討したい」です。ところが相手に届くのは「コストが論点だと認識している」というところまで。賛成なのか反対なのか、判断できません。
結果として、議事録には何も残らないか、悪くすると同意として処理されます。あとから「実は反対だった」と言っても、決定はもう動いている。
これはセンテンスにするだけで解決します。
I think the cost is too high for us.
中学校で習う構文です。難しい単語は一つもありません。それでも意図は正確に届く。
主語と動詞さえ立っていれば、発音が多少崩れても相手は文脈で補完できます。逆に単語だけを投げると、補完のしようがない。発音の不明瞭さを救うのは、発音の練習ではなく文の完結性です。
TOEIC で 800 台を取れる人ほど、この逆をやりがちです。知っている単語の精度を上げる方向に努力する。しかし会議で必要なのは、知っている構文で言い切ることのほうです。
まず、この5つを口に馴染ませておけば大半の発言が乗ります。
I think …(意見)I'm concerned about …(懸念)My understanding is that …(認識の確認)Can we …?(提案)Just to be clear, …(前置き)
I think … は二語で終わるので、そのあとは自分で組み立てることになります。それでも最初の一つとして挙げているのは、単語だけを投げる状態から抜け出すのに一番手数が少ないからです。まず主語と動詞を置いてしまう。この感覚さえ掴めれば、あとは中身が続きます。
慣れてきたら、From my perspective, … のように話す方向まで決まってしまう長めの型に移していくと、さらに楽になります。ここではまず、文の形にすることだけを目的にしてください。
なぜ「知っている単語」で足りるのか、なぜ単語を増やす方向が逆なのかは、TOEIC が測っているものと測っていないものを見ると分かりやすいと思います。
つまずき3:黙っていることは「聞いている」と解釈されない
日本語の会議では、黙って聞いていること自体が参加として成立します。発言しなくても、その場にいて内容を持ち帰り、あとで動く。それで問題になりません。
英語圏の会議、より正確には多国籍のレポートラインでは、そう扱われません。発言がなければ、議事録上も相手の認識上も、その人はその議題に意見を持たなかったことになります。
どちらの文化が優れているかという話ではありません。評価のされ方が違う、という事実の話です。
マネジメント側から見ると、これはもっとはっきりしています。沈黙している参加者の意見は、文字通り存在しない。会議後に「実は懸念があった」と個別に言われても、決定はすでに動き出していて、巻き戻すには相応のコストがかかる。そして次からは、その人に話が振られる回数が静かに減っていきます。
意見を持っていない議題でも、参加を示す方法はあります。
Let me make sure I understand — you're saying that …?
確認は意見よりはるかに出しやすく、しかも「聞いている」ことを可視化できます。議題が事前に共有されているなら、一つだけ質問を用意しておく。それだけで沈黙は破れます。
この「用意しておく」をどうやるかは、会議前の準備を8つに分けた記事にまとめました。
つまずき4:語彙が足りないと、意図より強い否定になる
これは私自身がかなり長く抱えていた問題で、日本人メンバーにも頻繁に見た失敗です。
日本語で反対意見を言うとき、私たちは緩衝材を何重にも入れています。「なるほど、ただ、そこはちょっと難しいかもしれませんね」——受けて、和らげて、断定を避ける。
ところが英語になると、出てくるのはこれです。
No, I don't think so.But…
緩衝表現の語彙がないので、直球しか撃てない。本人の意図は「懸念がある」程度なのに、場には「反対」として着地します。空気が止まり、議論が止まり、以降その人には話が振られにくくなる。
本社と日本市場の方針をすり合わせる場面では、これが特に効いてきます。日本側は本社案に反対しているのではなく、前提条件を確認したいだけ。それなのに伝わり方が全面否定になってしまうと、「日本はいつも反対する」という評価だけが残ります。中身の議論に入る前に、話が終わってしまう。
順序を変えるだけで結果が変わります。まず受ける、それから条件をつける。
That makes sense. My only concern is the timeline.I see the point. Before we decide, I'd like to understand how this works in the Japanese market.
日本語でやっていることと、まったく同じ構造です。語彙がないから省略されているだけで、能力の問題ではありません。
反対の強度をどう調整するかは、3段階の目盛りとして別記事に整理しています。
つまずき5:失言のコストを過大に、沈黙のコストを過小に見積もっている
間違った英語を出すコストは、実際にはほぼゼロです。時制が崩れても、冠詞が抜けても、多国籍の会議で問題になることはありません。全員が非母語話者の英語を聞き慣れています。
一方、沈黙のコストは累積します。一回の会議では誰も気に留めませんが、半年続けば「あの人は意見を言わない」という評価が固定される。
つまり、恐れる方向が間違っています。文法の誤りを恐れて黙るより、つまずき4のような強度のミスを避けるほうがはるかに実利がある。文法は誰も見ていませんが、否定の強さは全員が感じ取ります。
独学で直せるもの、直せないもの
ここまでの5つのうち、1・2・3・5は知れば直せます。音量を上げる、センテンスで言い切る、確認の一言を用意する、恐れる対象を入れ替える。どれも今日の会議から試せます。
問題は、つまずき4と、つまずき1の語尾が消える癖です。この二つは自分では観測できません。自分の発言は、頭の中の意図と一緒に聞こえてしまうので、実際にどう響いたかがわからない。「和らげたつもり」で撃った直球に、自分では気づけないのです。
方法は二つしかありません。自分が参加した会議を録音して聞き返すか、第三者に指摘してもらうかです。前者は今日からできます。後者が必要になる段階で、初めてスクールやコーチングを検討する価値が出てきます。逆に言えば、1・2・3・5の段階で受講しても、お金で解決する必要のないことにお金を払うことになります。
この順番については、スクールに自費で行く前に確認したいことで詳しく書きました。
まとめ
英語の会議で発言できないとき、実際に起きているのは次の5つです。
- 聞き返されるのは発音ではなく、音量と語尾が消えることが原因
- 単語で投げると意図は届かない。中学英語のセンテンスで言い切るほうが正確に伝わる
- 沈黙は「聞いている」ではなく「意見がない」と処理される
- 緩衝表現の語彙がないため、意図より強い否定になっている
- 失言のコストを過大に、沈黙のコストを過小に見積もっている
どれも語彙力の問題でも、発音の問題でもありません。単語帳をもう一冊やっても、この5つは一つも解決しません。
それぞれのつまずきについては、以下の記事で詳しく扱っています。
- 英語で反対すると、意図より強く伝わってしまう理由(つまずき4)
- 英語の会議の準備で、英語を準備してはいけない(つまずき3)
- 「TOEIC 800なのに話せない」のは勉強不足ではない(つまずき2)
- 英会話スクールに自費で行く前に(独学の先)