インド英語もイギリス英語も聞き取れない — 難しさの型が違えば、対処も違う

これまで問題なく話せていた相手が異動して、後任と初めて会議をした日。同じ議題、同じ英語のはずなのに、まったく聞き取れない。

あるいは、本社の担当が米国からロンドンに移った日。教材でずっと聞いてきた英語なのに、急に半分しか分からなくなる。

こういうとき、多くの人は「訛りが強い」で片付けます。しかしそれで終わらせると、対処が「慣れるまで我慢する」しか残りません。

実際には、聞き取れなさには型があります。そして型ごとに、やるべきことが違います。

まず、「訛り」という捉え方をやめる

前提を一つ入れ替えます。

教材や試験の英語は、多くが米国英語です。だから米国英語だけで練習してきた人にとっては、それ以外のすべてが「訛って」聞こえます。 イギリス英語も、オーストラリア英語も、インド英語も、同じように聞き取りにくい。

しかしこれは、相手の英語が標準から外れているという意味ではありません。自分が聞いてきた音と違う、というだけです。

この捉え方が実務では重要になります。というのも、多国籍の会議で最も多いのは非母語話者同士の英語で、米国英語が基準という感覚のほうが少数派だからです。そして自分の日本語訛りの英語も、相手にとっては同じ「聞き慣れない英語」です。

聞き取れないのは相手の問題ではなく、自分が聞いてきた範囲が狭いというだけ。そう置き直すと、次の分類が意味を持ちます。

難しさは、3つの型に分かれる

型1:音が違う

子音や母音の出し方、リズムが教材と違うので、知っている単語が知っている音で届かない型です。

聞こえた音を単語に変換できないので、意味以前のところで止まります。これが最も多い型です。

型2:文の形が違う

音は取れているのに、こちらが待っている文の形で来ない型です。

主語が落ちる、be動詞が落ちる、語順が入れ替わる。単語は全部聞こえたのに、文として組み立てられない。「聞き取れなかった」と感じますが、実際には聞き取れています。

型3:速度と省略

一つひとつの音も文の形も標準的なのに、速すぎる型です。母語話者同士の会話で起きます。

単語がつながって短縮され、機能語が消え、間がない。これは相手が「配慮していない」状態で、悪意ではなく単に母語話者のペースです。

実際に会う英語は、どの型か

以下は傾向です。個人差は非常に大きく、国名から相手の英語は予測できません。 出身国と受けた教育、住んだ場所はそれぞれ別ですし、同じ国の出身でも話し方は人によって違います。

ここに挙げるのは、相手を分類するための表ではなく、いま自分がどの型で詰まっているかを見分けるための手がかりです。「聞き取れない」で止まらず、原因の型に当たりを付けるために使ってください。

イギリス英語 — 型1。r を発音しない、bath などの母音が違う、t が飲み込まれる。語彙も違います(lift / mobileschedule の読み方)。米国英語だけで練習してきた人が最初に詰まる相手がここです。母語話者だから聞き取れるはず、という思い込みがあるぶん、詰まったときの動揺も大きい。

オーストラリア英語 — 型1。母音の変化が大きく、daydie に近く聞こえます。文末が上がるイントネーションも特徴で、平叙文が疑問に聞こえることがあります。短縮語も多い。イギリス英語に慣れていても、別途手強く感じる相手です。

インド英語 — 型1。子音の出し方が違い、リズムが音節ごとに等間隔に近い。加えて速いことが多く、型3も混ざります。ただし文法は非常に正確なことが多いので、音に慣れさえすれば急に楽になるタイプです。

シンガポール英語 — 型1と型2の複合。語末の子音が落ちるのに加えて、くだけた場面では主語やbe動詞が省略されます。This one confirmed already? のような形で来ると、音は取れているのに組み立てられない。APACの統括拠点が置かれていることが多いので、遭遇率が高い相手です。

フランス語話者の英語 — 型1。h が落ちる、thzs に寄る、強勢の位置が違う。

中国語話者の英語 — 型1。語末の子音が落ちやすく、thl / r の区別が変わります。

米国英語(母語話者同士) — 型3。日本人向けに調整されていない速度で話し始めると、聞き慣れているはずの英語が急に分からなくなります。

型ごとに、対処が違う

ここが本題です。

型1(音)は、慣れるしかない。ただし範囲は限られている

音の問題に近道はありません。聞いた量がそのまま結果になります。

ただし、世界中のあらゆる英語に備える必要はありません。 実務で聞く相手は同じ顔ぶれで、たいてい十数人です。その人たちの音に慣れれば、大半は解決します。この点は聞き取りの記事で詳しく書きました。

ここで注意したいのは、誰の英語に備えるかは、地域や本社の所在地から推測できないということです。

国籍と話す英語は一対一で対応しません。インド出身でイギリスの大学を出た人は標準的なイギリス英語を話しますし、シンガポールで育って米国の大学に行った人もいます。インド出身者は世界中の企業にいるので、欧州本社でも米国本社でも普通に出会います。逆に、欧州に本社があるからフランス人やドイツ人のスタッフが多いとも限りません。多国籍企業の本社ほど、出身国はばらけます。

言えるのは、本社の所在国の英語は相対的に出会いやすいという程度です。

だから、推測ではなく実際の名簿で決めてください。自分が出る定例の参加者、レポートライン、プロジェクトのメンバー。その人たちが実際にどう話すかだけが、備えるべき対象です。 網羅は不可能ですが、必要な範囲は驚くほど狭いはずです。

型2(文の形)は、知識で解決する

こちらは慣れる前に解決できます。「主語やbe動詞が落ちることがある」と知っているだけで、その場の処理が変わるからです。

聞こえた単語を、標準的な文の形に自分で戻せばいい。This one confirmed already?Has this one been confirmed already? です。知らないと固まりますが、知っていれば埋められます。

型1と型2を区別する意味はここにあります。慣れが必要なものと、知識で足りるものを混同すると、無駄に時間をかけることになります。

型3(速度)は、相手に調整してもらう

速度の問題は、こちらが処理速度を上げるより、相手に落としてもらうほうが早いです。

Sorry, could you slow down a little?

言いにくいと感じるかもしれませんが、母語話者は自分が速いことに気づいていないだけです。非母語話者が多い会議では、司会が最初に全員へ依頼することもあります。

聞き返しの技術も同じ場面で効きます。何が分からなかったかを特定して聞く方法は、別記事にまとめました。

相手が変わったときは、型を見分けるところから

新しい相手と話すことになったら、最初の1〜2回はどの型で詰まっているかを観察してください。

これを最初にやっておくと、「この人の英語は難しい」で止まらずに済みます。難しさの中身が分かれば、次に何をすればいいかが決まります。

そして念のためですが、これは相手を分類してラベルを貼る話ではありません。自分がどこで詰まっているかを見分けるための道具です。同じ国の出身でも話し方は人によって違いますし、相手の英語が上手いか下手かとも関係ありません。

まとめ