英語で反対すると、意図より強く伝わってしまう理由 — 会議で懸念を出すときの3段階

本社との会議で、提案された施策について前提条件を一つ確認したかった。反対するつもりはまったくなかった。それなのに会議のあと、日本側は反対していると受け取られていた——。

外資系企業で働いていると、これに近い経験を一度はすると思います。私自身も、日本人メンバーの発言が意図の何倍も強く着地する場面を、何度も見てきました。

原因ははっきりしています。日本語では反対の強度を細かく調整しているのに、英語ではその調整に使う語彙がないので、強度が0か100になってしまうからです。

必要なのはフレーズを増やすことではありません。強度の目盛りを3段階持つことです。実務で使うのは、ほぼその3つだけです。

日本語で私たちは、何重にも緩衝材を入れている

日本語で反対意見を言うときの発話を、そのまま書き出してみます。

「なるほど、そういう方向もありますよね。ただ、そこはちょっと難しいかもしれません。もう少し検討させていただけますか」

一文の中に、受容(なるほど)、承認(そういう方向もある)、逆接の緩和(ただ)、断定回避(かもしれません)、依頼形への変換(いただけますか)が入っています。日本語話者はこれを意識せずにやっていて、相手も緩衝材の厚みから本当の強度を読み取ります。

これを英語でやろうとすると、出てくるのはたいていこうなります。

No, I don't think so.

緩衝材がすべて落ちて、芯だけが残る。本人の意図は「懸念がある」程度なのに、場には全面否定として着地します。議論が止まり、以降その人には話が振られにくくなる。

英語が下手だから、ではありません。強度を調整する語彙を持っていないだけです。

強度の目盛りを3段階持つ

実務で必要なのは、次の3段階です。それぞれ2つずつ覚えておけば足ります。

レベル1:軽い懸念(議論は止めず、論点だけ足す)

That could work. My only question is the timeline. One thing I'd want to check is whether the local team has the capacity.

これは反対ではありません。「論点を一つ追加した」という表明です。実務で最も使用頻度が高いのがこの層で、そして日本人が最も使えていない層でもあります。ここで一言出しておけば、後の議論で自分の懸念に戻ってこられます。

My only question is … は特に便利です。only が入ることで「それ以外は合意している」ことが同時に伝わります。

レベル2:条件付き同意(方向は賛成、前提を残す)

I'm okay with the direction, as long as we can secure the budget. I can support this if we can adjust the timeline.

これが本命です。合意はする、ただし条件を議事録に残す。

外資の会議で最も価値があるのはこの層です。反対はしていないので議論は前に進みますが、条件が明示されているので、後から前提が崩れたときに戻ってこられる。日本語の交渉で普通にやっていることを、そのまま英語でやるだけです。

as long asif が言えるだけで、意見の解像度が一段上がります。

レベル3:明確な反対(回数を絞る)

I have to push back on this one. I don't think this will work in the Japanese market, and here's why.

これは年に数回で十分です。使いすぎると効力が落ちます。逆に、レベル1と2を普段から使っている人がレベル3を出すと、場が止まって話を聞いてもらえます。

push back は強い表現ですが、感情的ではなく職務上の異議として受け取られるので、日本人が使いやすい言い回しだと思います。and here's why を付けて、必ず理由まで一息で言い切ることが大切です。理由のない反対は、英語圏の会議では意見として扱われません。

順序の原則:受ける → 理由 → 要求

どの強度で話すときも、順序は同じです。

  1. 受けるThat makes sense. / I see where you're coming from.
  2. 理由The challenge on our side is that …
  3. 要求Could we …? / I'd like to propose …

日本語で無意識にやっている順序と同じです。英語になると1と3が抜け落ちて、2だけを投げてしまう。そうすると、理由の説明が反対表明として聞こえます。

特に1は、一言でいいので必ず置いてください。ここがあるかないかで、同じ内容でも受け取られ方がまったく変わります。

避けたい入り方

It's difficult. — 最も誤解される一言

これは知っておく価値があります。日本語の「難しいですね」は、実質的にはノーです。しかし英語の difficult は「困難だが実行可能」という意味で受け取られます。

つまり、こちらが「無理です」と言ったつもりの発言が、相手には「大変そうだががんばればできる」と届く。合意したことになって話が進み、あとで「できないとは聞いていない」となる。実際に何度も見た失敗です。

本当に難しいなら、条件か理由まで言い切ってください。

That's going to be difficult with the current headcount. We'd need two more people to make it work.

But から始める

But … は、直前の発言をまるごと否定する合図に聞こえます。同じ逆接でも That said, …At the same time, … なら、前の発言を残したまま接続できます。

Actually

日本語の「実は」のつもりで使いがちですが、英語の Actually は「あなたは間違っている」という訂正のニュアンスを持ちます。悪気なく多用すると、細かく揚げ足を取る人という印象になります。

Maybe

日本人の使う Maybe は、本人の意図よりずっと弱く響きます。「どちらでもいい」と解釈されて、意見として数えられません。懸念があるなら、レベル1の言い方で明示したほうが伝わります。

言い方が変えるのは、情報の量ではなく扱われ方

ここまでは個人の話ですが、少し引いて見ておきます。

先に誤解を避けておくと、会議での言い方が原因で本社からの情報共有が止まる、ということはありません。カウンターパートは組織の建て付けとして決まっていますし、決定前の確認プロセスが省略されるようなことは、私の経験では起きませんでした。そこは言い方で揺らぐ部分ではない。

変わるのは、こちらの発言が検討事項として残るかどうかです。同じ懸念でも、反対として出すと「日本側の反応」として処理され、条件として出すと「詰めるべき前提」として議題に残る。前者は聞き置かれて終わり、後者は次の会議に持ち越されます。

個人単位では、もう少しはっきり出ます。一担当者の立場で強度のずれた発言を続けていると、その議論に呼ばれなくなることはある。情報は共有されるけれど、意見を求められる相手からは外れていく、という形です。

もう一つ書いておきたいことがあります。本社が日本市場の事情を軽く見たまま方針を通そうとするケースは、他社の例も含めて何度も見てきました。ただ、そういう進め方はこの市場では結局うまくいきません。だからこそ、日本側が出す情報の形が効いてきます。「反対です」は立場の表明として処理されますが、「この条件が満たされないと数字が出ません」は判断材料として扱われる。伝えたい中身が同じでも、残り方が変わります。

私が英語の会議で強度の調整を意識するようになったのは、この違いに気づいてからです。

自分の強度は、自分では測れない

やっかいなのは、自分の発言が実際にどの強度で着地したかを、自分では観測できないことです。頭の中の意図と一緒に聞こえてしまうので、「和らげたつもり」で撃った直球に気づけません。

方法は二つしかありません。自分が参加した会議を録音して聞き返すか、第三者に指摘してもらうかです。前者は今日からできます。

なお、英語の会議で発言できない原因は強度の問題だけではありません。音量、単語だけで話してしまう癖、沈黙の扱われ方など、実際には5つのつまずきがあります。そちらは別記事で整理しました。

まとめ