外資系の転職にTOEICは何点必要か — スコアが見られるのは選考の一度だけ
求人票に「TOEIC 800点以上が望ましい」と書いてある。手元のスコアは5年前の730で、その後まとまった勉強はしていない。受け直してから応募するか、このまま出すか。応募ボタンの手前で止まったまま、検索窓に「外資系 転職 TOEIC 何点」と打ち込む。
検索して出てくるのは、業界別の目安表です。金融・コンサル・商社は800〜900、メーカーは700〜850、ホスピタリティは600〜700。どのサイトもほぼ同じ数字を並べています。
ですが、その表を何度見ても、応募ボタンは押せません。
目安表を見ても決まらないのは、表が答えていない問いを持っているから
表の数字には出典がありません。求人票の記載を集めて均したものか、人材エージェントが日々の業務で感じている相場観か、どちらかです。どちらにせよ、それは「その業界の求人票にはこういう数字が書かれがちだ」という話であって、「あなたの応募が通るか」とは別の話です。
知りたいのは後者のはずです。何点が相場かではなく、自分がこの点数で出していいのか。
この問いに目安表が答えられないのは、問いの立て方のほうがずれているからです。TOEICのスコアは、あなたが採用されるかどうかを決めていません。決めているのは、あなたの書類が読まれるかどうかだけです。
スコアが参照されるのは、選考の最初の一回だけ
選考の段階ごとに、スコアがどう扱われるかを分けて見ます。
書類選考時。ここが唯一、スコアが働く場面です。要件欄に数字が書かれていれば、そこに届いているかどうかで先に分かれます。応募者どうしの英語力を見比べているのではなく、条件を満たしているかの確認です。
このとき、スコアは「読む/読まない」のフィルタとして働いています。値が高い方が有利という評価軸ではないことが多いです。閾値が700なら、850の人と720の人のあいだに差はゼロです。どちらも同じ「読む」の側に入り、そこから先は職務経歴やスキル・知識で比較されます。
面接時。一次面接から最終面接まで、スコアは職務経歴書などの資料で共有はされますが、ほとんど参照されていません。面接官が知りたいのは、組織にフィットするかと実務能力。英語での会話力や対応力を見るために英語での会話に切り替えることはありますが、過去の試験の点数の良し悪しはこのどれも反映しません。
入社後。一度も出てきません。
私はTOEIC 820で外資系企業に入社し、在職中に一度も受け直していません。 求められたこともなければ、スコアが話題に上がったこともありません。評価面談でも、本社のカウンターパートとのやり取りでも、社内異動の話が出たときにも、一度もです。
スコアは入場券であって、成績表ではありません。使うのは入るときの一回だけです。
受け直す意味があるのは、閾値に届いていない場合だけ
この構造から、実務的な判断は次のようになります。
閾値に届いているなら、受け直す価値はほとんどありません。 730を850にしても、書類選考の結果は変わりません。その勉強時間は、面接で実際に測られるもの(後述します)に振り向けたほうが効きます。
届いていない場合だけ、受け直す意味があります。 ただしその前に、求人票の文言を読み分けてください。
TOEIC 800点以上(必須)
これは条件です。届いていなければ、そこで切られる前提で考えたほうがいい。
TOEIC 800点程度の英語力が望ましい/尚可
これは条件ではありません。「望ましい」「尚可」と書かれているものは、他の要素で補える扱いです。届いていなくても出して構いません。職務経歴のほうに読ませるものがあれば、そちらで読まれます。
この二つは見た目が似ていますが、選考での扱いが違います。表の数字より、応募しようとしている求人票の文言そのもののほうが情報量があります。
履歴書には、古いスコアでも取得年ごと書く
書き方についてもよく聞かれるので、あわせて書いておきます。
取得年は書きます。古くても消しません。 「2019年 TOEIC 730点」は、いまの実力の証明としては確かに弱い。ですが、空欄よりは強いです。資格欄にTOEICの記載がないと、受けたことがないか、書けない点数だったかのどちらかとして読まれます。古い数字が入っているほうが、少なくとも一度は測ったことがあると分かります。
置く場所は資格欄です。自己PRの中では触れません。細かい話に見えますが、印象がはっきり変わります。スコアを自己PRで押し出すと、それしか押し出せるものがない人として読まれます。 職務経歴の中身で読ませたいなら、スコアは資格欄に置いたまま黙っているほうが強い。
もう一点、自分の側で意識しておくことがあります。TOEIC L&Rには話す・書くのセクションがありません。測っているのは受信側だけです。履歴書に注記する必要はありませんが、面接で測られるのはその反対側だという事実は、次の節に直結します。
面接官は、スコアを見る代わりに60分で何を見ているか
ここからは、採用する側に座ったときの話です。私は外資系企業の日本法人でラインマネジメントと部門統括を担当し、自分のチームに入る人の面接に出てきました。
先に、要件欄に数字を書く側の事情を書きます。あの数字は、応募者の英語力を順位づけるために置いているものではありません。これを下回ると入ってから業務が回らない、という最低水準を示すために置いています。
応募を絞るために書いている、と受け取られることがありますが、これも違います。応募が殺到して困っている会社ばかりではありません。むしろ母集団が集まらないことを嘆いている会社のほうが多い。門を狭めるために数字を出しているのではなく、募集の前提をあらかじめ明示しているだけです。
だから閾値なのであって、評価軸ではない。この一点が、目安表からはどうしても抜け落ちます。
では面接では何を見ているか。英語に関して言えば、見ているのは次のようなことです。
一つ目は、質問の意図を取り違えずに答えているか。聞き取れていない人は、答えが微妙にずれます。英語が流暢かどうかより先に、ここで分かります。
二つ目は、答えが結論から始まっているか。背景の説明が2分続いて結論が最後に来る人と、結論を置いてから理由を並べる人では、同じ内容でも伝わり方がまったく違います。これは英語力というより、英語の場での話の置き方の問題です。
三つ目は、分からないことを分からないと言えるか。沈黙で埋める人と、I'm not sure about that. What I can say is … と言って自分が言える範囲に切り替えられる人がいます。後者は仕事でも同じことができます。
四つ目は、反論されたときに持ちこたえるか。面接では、意図的に違う見方をぶつけることがあります。そこで主張を引っ込めてしまう人と、I see your point. At the same time, … と受けてから自分の側を残す人がいます。日本語では後者ができるのに、英語になると前者になる方が非常に多い。
この4つは、いずれもTOEICのスコアと相関しません。高いスコアを持っていて会話の途中で黙ってしまう方も、閾値ぎりぎりで議論を最後まで回す方も、どちらも見てきました。スコアが測っているのは、制限時間内に選択肢から正解を選ぶ速度です。面接で測られているのは、その場で自分の答えを組み立てて置けるかどうか、端的に言えば対応力と応用力です。
そして採用の判断は、後者で決まります。
この4つが面接の中で具体的にどういう形で現れるのか、そして採否を実際に決めているのが誰なのかは、外資の英語面接で、あなたの英語を採点しているのは誰かに分けて書きました。
ここは、参考書では確認できない領域です
問題は、この4つが自分では観測できないことです。
結論から話せているつもりで、前置きが長くなっていないか。反論を受けたときに、自分が引いてしまっているのか、持ちこたえているのか。録音して聞き返しても、自分の発言が相手にどう届いたかは分かりません。相手の反応に現れるものだからです。
TOEICのスコアは、ここを何も教えてくれません。問題集も同じです。必要なのは、話している最中の自分の癖を外から指摘してもらうことで、それは一人では手に入りません。費用を出して人に見てもらう前に確かめておくべきことは、英会話スクールに自費で行く前ににまとめています。
まとめ
- 業界別の目安表は、求人票の相場であって、自分が応募していいかの答えではない
- TOEICのスコアが参照されるのは書類選考の一度だけ。そこでは「読む/読まない」のフィルタとして働く
- 閾値に届いているなら、受け直しても書類選考の結果は変わらない
- 「必須」と「望ましい/尚可」は選考での扱いが違う。目安表より、応募する求人票の文言を読む
- 取得年が古くても資格欄に書く。ただし自己PRでは押し出さない
- 採用側が数字を書くのは、英語力を順位づけるためではなく、最低水準を示すため
- 面接で見られているのは、質問の意図を取れているか、結論から話せるか、分からないと言えるか、反論に持ちこたえるか。いずれもスコアとは相関しない
スコアの心配は、書類を出した時点で終わります。そこから先に持ち越されるのは、面接で測られる側の能力です。入社後に実際にどこで困るのかは外資に入ってから、英語で実際に困ることに、スコアがあるのに話せないという状態の中身は「TOEIC 800なのに話せない」のは勉強不足ではないに書いています。