本社の依頼に英語で押し返すとき、「できない理由」から書いてはいけない

本社から一通のメールが届く。件名には Action needed、本文には「これを、いつまでに」。読み進めるうちに、書かれていることが日本ではそのまま実行できないと分かる。返信欄を開いたまま、最初の一文が出てこない。

外資系企業の日本法人でラインマネジメントを担当し、本社のカウンターパートと日常的にやり取りしてきました。この種のメールには何度も返信してきましたし、部下やチームのメンバーが押し返しのメールを書いて通らなかった場面も、何度も見てきました。

「英語 メール 断り方」で検索すると、丁寧に断るためのフレーズ集がたくさん出てきます。ただ、本社の依頼に返すときには、それはほとんど役に立ちません。問題は断り方ではないからです。

フレーズ集が想定しているのは、断れば終わる相手

検索上位のフレーズ集は、だいたい同じ型でできています。感謝を述べ、残念な気持ちと理由を伝え、代替案か次の機会に触れる。想定されている場面は、取引先からの提案、面会の依頼、仕事のオファーといったものです。

これらに共通しているのは、断ったらそこで話が終わるという点です。相手は別の取引先を探せばいいし、こちらとの関係を丁寧に閉じられれば目的は果たせます。

本社の依頼は違います。依頼には目的があって、その目的は日本側が断っても消えません。「できません」と返しても、相手は依頼を取り下げるのではなく、「では、どうやるのか」を聞き返してきます。あるいは、同じ依頼がもう少し強い言い方で戻ってきます。

イメージしやすい例で言えば、次のような依頼です。

どれも、依頼した側に悪意はありません。日本の規制や、外部の関係者との距離感や、市場の慣行が見えていないだけです。そして、見えていないという事実は、断ったところで変わりません。

本社への返信で考えるべきなのは「どう断るか」ではなく、「何なら通せるか」です。

「難しい」を並べた返信は、言い訳として読まれる

押し返しがうまくいかないメールには、はっきりした共通点があります。日本側の都合だけが書いてあることです。

規制がある。関係先が納得しない。現場の人手が足りない。どれも事実で、どれも正当な理由です。それでも、これを並べただけの返信は、相手には excuse として読まれやすい。自分で書いたメールでも、人が書いたメールでも、そう受け取られる場面を何度も見ました。

理由は単純です。日本側の制約だけを並べた返信は、相手の目的に一行も触れていません。受け取った側から見ると、「この人は、こちらがやりたいことを達成する気がない」という返信に見えます。中身が正しいかどうかを検討してもらう前に、姿勢で判断されてしまいます。

先に書いておくと、これは英語だから起きることではありません。日本語で同じ内容を上司に送っても、同じように受け取られます。英語で書くと、言い回しを選ぶのに手一杯になって、構成まで気が回らなくなる。そのぶん、この形になりやすいだけです。

It's difficult. が英語でどう受け取られるかは、英語で反対すると、意図より強く伝わってしまう理由で書きました。「難しい」のつもりで書いても、「手間はかかるが、できる」と受け取られやすい、という話です。

ただ、ある程度勉強している人は、このことをすでに知っています。そして知っているからこそ、反対側に振れます。We can't do this. や This is impossible. と書いてしまう。

言い切ること自体は間違いではありません。ただ、相手の目的に一言も触れないまま can't を置くと、上に書いた「日本側の都合だけの返信」が、いちばん強い形で届きます。difficult で弱すぎたものを can't で強い側に直しても、目的に触れていないという問題はそのまま残ります。

ここで扱うのは単語の選び方ではなく、その手前、一通のメール全体の組み立てのほうです。

押し返しが通るかどうかは、相手が譲れない点を先に読んで、そこになじむ提案になっているかで決まります。 言い回しの丁寧さは、そのあとの問題です。

返信は、相手の目的を言い直すところから始める

私が本社の依頼に押し返すときは、だいたい次の順序で書いていました。

1. 相手の目的を、自分の言葉で言い直す

最初に置くのは、受け止めの一言ではありません。相手が何を達成したいのかを、自分の言葉で言い直すことです。

I understand the goal is to align the Japan launch with the global timeline. If I understand correctly, the priority here is consistency across markets.

ここで言い直した目的が、相手が譲れない点です。これを最初に書いておくと、以降の内容がすべて「その目的をどう達成するか」の話として読まれます。逆にここが抜けると、同じ内容が「やりたくない理由」として読まれます。

言い直しがずれていれば、相手が訂正してくれます。それはそれで、譲れない点がはっきりするので得をします。

2. 検討が必要な点を、数を決めて挙げる

次に、そのままでは進められない点を挙げます。全部を挙げないことが大事です。

There are two points we need to work through before we can roll this out in Japan.

数を先に言うと、相手は読む前に全体の大きさが分かります。そして、挙げる点を絞る作業そのものが、「本当に動かせないのはどこか」を自分で見極める作業になります。細かい懸念まで全部並べると、ここでまた「できない理由の一覧」に戻ってしまいます。

3. 日本固有の事情を、判断材料として渡す

ここで初めて、規制や外部の関係者や市場の慣行を説明します。

This is driven by local regulation, not by our preference. In Japan, changes to this kind of document usually go through the industry body, not through individual companies.

一つ目の文のように、それが日本側の好みではないことを明示するのが効きます。好みなら交渉の余地がありますが、規制や外部の手続きなら、相手も前提として受け取るしかありません。

4. 市場の話は、賛成ではなく理解を求める

規制や手続きは事実として渡せます。難しいのは、市場の特性の話です。「日本の顧客はこう動く」「この市場ではこのやり方は受け入れられない」という話は、相手から見ると日本側の見立てにすぎません。

ここで賛成を取りに行くと、話がこじれます。相手は、自分たちの方針を捨てるかどうかの判断を迫られるからです。

市場の話に入ったところで、私は賛成ではなく理解を求める方向に切り替えていました。

I'm not asking you to change the plan right now. I'd just like you to know how the market is likely to respond here. Let's revisit this once we see the feedback from the market.

自分が正しいから方針を変えてくれ、とは言っていません。この市場ではこう動く可能性が高い、ということを知っておいてほしい、と言っています。これなら相手は、自分の方針を守ったまま受け取れます。

そしてネクストステップとして、市場からのフィードバックを受けて再度議論する場が成立します。二つ目の文は、その場を先に置いておくためのものです。

5. 次にこちらが何をするかで閉じる

最後は、代わりの案を示したうえで、次にこちらが何をするかで閉じます。

I'll reach out to the industry body with our proposal and come back to you shortly.

「できません」で終わるメールは、ボールを相手に戻します。相手はそこから、日本側をどう動かすかを考えることになる。次の動きをこちらが引き取って閉じれば、押し返しは作業の続きとして読まれます。

1で言い直した目的に向かって、こちらがまだ動いていることが読み取れれば、押し返しは完成です。

実行できない指示には、長くても一度で返す

英語のメールに時間がかかるでは、一通一用件で、短く何度も往復するほうが速いと書きました。日常のやり取りについては、今もそう考えています。

ただ、一方的に「これを、いつまでに」と指示されて、それがそもそも実行できない内容だったときは例外です。私はそういうとき、長いメールを一度で送り返していました。

理由は、相手が持っていない前提を渡さないと、判断材料にならないからです。短い往復に分けると、最初の一通で届くのは「できません」の部分だけになります。規制の説明や代替案は二通目以降に回り、そのあいだに「日本側はまたできないと言っている」という印象が先に固まってしまう。

長くても、書く順序は変わりません。結論が先、背景が後です。上の1から5の順で組めば、最初の数行を読んだ時点で「目的は共有している、検討が必要な点が二つある」ことが伝わります。長いのは、最後まで読む必要のある人のためです。

メールで通らないものは、場を変える

メールだけで決着することもあれば、会議を設定することもあります。私の感覚では、分かれ目は次のとおりです。

もう一つ、メールで納得されにくいときにやっていたことがあります。同じ課題を抱えている他のメンバーに声をかけて、会議に持ち込むことです。

一人から出てくる反論は、どうしてもその人の好み、preference として受け取られやすい。3番で「日本側の好みではないことを明示する」と書いたのは、このためです。ただ、文面でいくら明示しても、一人の声であることは変わりません。

複数の人が、それぞれ別の立場から同じ懸念を補強すると、それは検討すべき課題として受け止められます。理解が得られる可能性は、そこで一段上がります。

会議に持ち込むと決めたら、メールの役割も変わります。そのメールで決着をつけようとするのではなく、会議の前に相手の手元に前提を置いておくためのものになります。会議の準備の組み立て方は、英語の会議の準備で、英語を準備してはいけないで書いています。

もう一つ、本社の担当者が日本に来ているタイミングを使う方法もあります。取引先や関係者を訪問する予定に、同行してもらうのです。

It would be really helpful to have you with us when we visit our key partners.

メールで何度説明しても伝わらなかった市場の事情が、現場で一度話を聞いてもらうだけで伝わることがあります。日本側の見立てとしてではなく、相手自身が見たこととして残るからです。

文面の出来だけでは決まらない

最後に、書いておかないと不誠実になることがあります。

押し返しが通るかどうかは、文面の出来だけでは決まりません。上司やカウンターパートとの、そもそもの関係が効きます。普段から相手の目的を理解している人だと見られていれば、同じ内容の押し返しでも検討してもらえます。そうでなければ、上に書いた順序を守っても、姿勢の問題として片づけられることがあります。

そして、関係を作っていても崩れることはあります。私は、事前に根回しを済ませておいた案件で、会議の場になって上司に手のひらを返されたことがあります。正直、つらかったです。

根回しは効果的ですが、確実ではありません。 他のメンバーも、同じように根回しをしている可能性があります。そして直属の上長にそれをやられると、部門としてはその決定に従わざるを得なくなる。自分の口で説明できるようにしておくのは当然として、それで覆せるものではありません。構造的に、ほぼ覆せない。

そのあとにできるのは、実行しながら状況を詳細に報告し続けて、うまくいかなかったという事実を認識してもらう努力をすることくらいです。

相手が譲れない点を読めていたかは、自分では確かめられない

やっかいなのは、この記事の核心である「相手が譲れない点を読めていたか」を、自分では確かめにくいことです。

押し返しが通らなかったとき、返ってくるのは結果だけです。読みが外れていたのか、代替案が弱かったのか、英語の言い回しがきつすぎたのか、関係性の問題だったのか。自分の文面を読み返しても、その区別はつきません。

確かめる方法は、送る前に誰かに読んでもらうことです。いちばんいいのは、相手のことをよく知っている同僚や、同じカウンターパートとやり取りしている人です。相手が何にこだわるかを知っている人なら、「そこは相手が絶対に譲らない」「その代替案では目的に届いていない」と指摘できます。

英語の言い回しの強さについては、別の問題として、指摘を受けられる場を持っておく必要があります。どこにお金と時間をかけるかは、英会話スクールに自費で行く前にで順番を整理しました。

まとめ

口頭で懸念を出すときの強さの調整や、メールそのものの書き方は、別記事で扱っています。