英語で言葉が出てこないのは、語彙が足りないからではない — 探しているのは和訳に合う一語

本社との定例会議。自分の番が来て、話し始める。

We need to... the schedule...

そこで止まる。「前倒し」と言いたいのに、それに当たる英語が出てこない。画面の向こうで、全員が続きを待っている。隣に座っている日本側のメンバーに、小声で聞く。「前倒しって、何て言うんでしたっけ」

外資系企業の日本法人でラインマネジメントを担当し、本社のカウンターパートと日常的にやり取りしてきました。会議の途中で文が止まる場面は、何度も見てきました。隣の日本人メンバーに耳打ちしている人も、珍しくありませんでした。

単語帳に戻っても、止まる場所は変わらない

言葉が出てこなかった日の帰り道、多くの人は「語彙が足りない」と考えます。そして単語帳を開きます。

けれど、さっき止まった場面を思い出してみてください。earlier も move up も、知らない単語ではないはずです。言いたいことを伝えるだけの単語は、もう手元にありました。

足りなかったのは単語の数ではありません。手元の単語で言わずに、まだ見つかっていない一語を探しに行ったことが、文を止めています。

単語帳で増えるのは、読んで分かる側の語彙です。この話は「TOEIC 800なのに話せない」のは勉強不足ではないで書きました。

探しているのは、和訳にぴったり合う一語

止まっている人の頭の中で起きているのは、日本語の言い方に一対一で対応する英語を探す作業です。「前倒し」には「前倒し」に当たる英単語があるはずだ、という前提で探しています。

選択肢から正解を一つ選ぶ試験に慣れていると、その感覚のまま話そうとしてしまう面はあるかもしれません。ただ、仕事で使う日本語には、英語の一語に対応しない言い方がたくさんあります。

イメージしやすい例で言えば、次のようなものです。

日本語の言い方手元の単語で言えば
前倒しするdo it earlier / move it up
叩き台a first draft / something to start from
落とし所something both sides can accept
温度感how keen they are / how serious they are about it
持ち帰って検討するLet me check with my team and get back to you.
工数how much work it takes
横展開するuse the same approach in other teams

右の列は、どれも中学で習う単語です。辞書を引けばもっと近い一語が見つかるものもありますが、会議の最中に要るのはそれではありません。意味が届けば、その場では十分です。

文が途中で止まるのも、単語だけを投げてしまうのも、根は同じです。正解の一語が見つかるまで、文を先に進められない。単語だけを投げたときに何が起きるかは、「英語の会議で発言できない」を分解するのつまずき2で書いています。

止まったあとは、誰かが拾うか、そのまま流れる

言葉が出てこなくて止まったとき、実際の会議では何が起きていたか。

耳打ちを受けた人がその場で調べることもありましたし、日本側や本社側から助け舟が出ることも多くありました。本社側が Do you mean ...? と言葉を補ってくれる形です。

一方で、拾われないまま話が先に進むこともありました。複数人の会議では、言いかけた発言は流されることが多い。本人の中では「言いかけた」でも、議事録には何も残りません。

1対1だと、流される代わりに聞き返されます。相手は分かろうとして聞き返しているのですが、聞き返されるたびに自信をなくして、言葉がさらに出なくなっていく人もいました。

一語で届かなければ、数語で回り込む

私自身も、言葉に詰まることはありました。そのときにやっていたのは、次のようなことです。

共通しているのは、止まらないことです。一語が見つからなくても、文は先に進められます。説明しているうちに、相手のほうが正解の一語を出してくれることもよくあります。

どの手を使うかは、会議の重さと相手で変わる

どれか一つが正解ということはありません。会議体の重さや、相手との関係で使える手は変わります。

関係ができている相手との打ち合わせなら、助け舟を待って、笑いながら続けるのが一番早いこともあります。判断を求められる重い会議なら、相手の助けを当てにせず、自分で数語に言い換えて言い切るほうが安全です。

強く言う場所を間違えると、意味が反対に届く

言葉が出てきても、届き方で取り違えが起きることがあります。これは発音の正確さの話ではありません。どこを強く言うかの話です。

発音を直す優先順位が低いことは、「英語の会議で発言できない」を分解するでも書きました。多国籍の会議では訛りはお互い様で、全員が聞き取ることに慣れています。ただ、強く言う場所で意味が変わってしまう単語が、少数ですがあります。よく見かけたのは次の二つの型です。

can を強く言うと、can't に聞こえる

I can do it by Friday. の can は、普通は弱く短く言われます。強く、はっきり言われるのは否定の can't のほうです。末尾の t はほとんど聞こえないことが多いので、聞き手は強く言われたかどうかで聞き分けています。

そのため、「できる」と強調したくて can に力を込めると、「できない」と受け取られることがあります。

can は弱く言って、そのあとの動詞を強く言う。否定のときは can't をはっきり強く言うか、cannot や won't be able to と言い切れば、取り違えは起きにくくなります。

fourteen と forty は、強く言う場所で聞き分けられている

fourteen は後ろ(-teen)を、forty は前(for-)を強く言います。ここが平らになると、相手には区別がつきません。thirteen と thirty、fifteen と fifty も同じ型です。

厄介なのは、fourteen people のように後ろに名詞が続くと、fourteen の強く言う位置が前に寄りやすいことです。強く言う場所だけでは区別しきれない場面があるので、金額・日付・人数のように取り違えると困る数字は、one-four と一桁ずつ言い直すか、チャットに書いて確認しておくと確実です。

自分が言う数字を前日に声に出しておく準備は、英語の会議の準備で、英語を準備してはいけないで書きました。

回り込む練習は、相手がいないとできない

数語で言い換える、説明を始める、助け舟に乗る。どれも、相手がいて、実際に詰まる状況が起きないと練習になりません。 一人で言い換えの練習はできても、聞かれている最中に止まらずに回り込めるかは別の話です。

面接の記事(外資の英語面接で、あなたの英語を採点しているのは誰か)でも、言い換えて到達する部分は独学では伸ばしにくいと書きました。会議でも同じです。

この部分をどう埋めるかは、英会話スクールに自費で行く前にで段階ごとに分けて書いています。

まとめ

単語だけを投げてしまう問題と、文で言い切るための型は、別の記事で扱っています。